Pusher現象ってなに?

みなさんこんにちは。 

脳卒中後のADL獲得が妨げられる要因に「Pusher現象」がありますね。

Pusher現象は多くの場合で消失すると言われていますが、消失までの期間が長いほど運動機能やADLの改善率が低いともいわれています。

急性期リハにおいてはPusher現象を合併した患者さんを担当することも決して少なくありません。今回は「Pusher現象」について勉強しました。



Table of Contents
1. Pusher現象とは
2. どうして押してしまうのか
3. Pusher現象に対する理学療法




 1. Pusher現象とは


片麻痺患者の姿勢が患側に傾斜する現象(Listing phenomenon)は、1970年にBrunnstromによって報告されました。

しかしこの報告では、姿勢の矯正に対して抵抗するようなPusher現象の特徴は記載されていませんでした。


その後1985年、DaviesはPusher syndrome(押す人症候群)について報告し、Pusher syndromeの特徴として、健側に力を入れ、患側のほうに強く押すことを説明しました。


Pusher現象は半側空間無視や失語、失行、失認などの症状と関連することもありますが、PedersenらはPusher現象とそれらの症状には関連性が乏しいと報告しています¹⁾。

そのため、当初は「症候群」として説明されていましたが、現在は「Pusher現象」という表現が使われる場合が多いようです。


言うまでもありませんが、Pusher現象の特徴は非麻痺側で麻痺側方向へ「押す」ことです。

片麻痺患者は麻痺側に姿勢が傾くことがよくありますが、Pusher現象では姿勢を修正した場合にそれに抵抗するように押し返してくる反応が見られ、傾いた姿勢でも「傾いていない」と答えたり、まっすぐ座った姿勢でも「傾いている」と答えることがあります。


Pusher現象の発生率は1.5~64%と報告によって大きな開きがあるようですが、概ね10~15%程度と言われているようです。


責任病巣に関する研究もおこなわれていますが、Pusher現象に影響する脳損傷部位は非常に多様であり、はっきりと解明されていないようです。

しかし、小脳や脳幹の病変では出現することが少なく、間脳より上位の病変で出現しやすいと考えられているようです。


Pusher現象は多くの症例で改善し、最終的なADL改善度には差がなくなっていくと言われていますが、Pusher現象を伴わない患者と比較して入院が長期化しやすく、運動機能やADLの改善度が低くなりやすいと報告されています²⁻³⁾。


 2. どうして押してしまうのか

Pusher現象が生じる要因として「垂直性」が挙げられます。

垂直性の認知的な歪みによって、正しい垂直位を認識することができなくなり、認知的なギャップとの乖離を修正しようとして押してしまうのではないかと考えられているそうです。


垂直性を説明する際に、主観的身体垂直(SPV)主観的視覚垂直(SVV)という言葉が使われます。


閉眼での主観的身体垂直(SPV)は、麻痺側または非麻痺側に傾くことが報告されています⁴⁻⁵⁾。


一方で、Karnathらは「patients with pusher syndrome show no disturbed processing of visual and vestibular inputs determining visual vertical.」と説明しており、主観的視覚垂直(SVV)は障害を受けないため、視覚的な代償を用いたアプローチが有効ではないかと提案してます⁶⁾。


Pusher現象を呈する患者は半側空間無視(USN)も合併していることが少なくありません。

USNは視覚的な垂直性を損ねる要因になるため、視覚的に垂直位を正しく認知できなくなる可能性があるようです。



 3. Pusher現象に対する理学療法とは

Pusher現象のメカニズムははっきりと解明されていないようです。

そのためどのような介入が有効か明確にはされていないようですが、Karnathが奨めているような視覚的フィードバックを利用したアプローチが臨床的には有効かもしれません。


鏡や垂直な目印を使って、視覚的な手掛かりを患者に提示することで、視覚的に垂直性の認知を修正していくことができるかもしれませんね。


Pusher現象の要因のひとつとして「転倒に対する恐怖心」があるという意見もあるようです。

誘導によって恐怖心が高まることで心理的にPushingが強くならないように気をつけることも大切かもしれませんね。



参考文献

1. Pedersen PM, Wandel A, Jørgensen HS, Nakayama H, Raaschou HO, Olsen TS. Ipsilateral pushing in stroke: incidence, relation to neuropsychological symptoms, and impact on rehabilitation. The Copenhagen Stroke Study. Arch Phys Med Rehabil. 1996;77(1):25-28. doi:10.1016/s0003-9993(96)90215-4


2. Danells CJ, Black SE, Gladstone DJ, McIlroy WE. Poststroke "pushing": natural history and relationship to motor and functional recovery. Stroke. 2004;35(12):2873-2878. doi:10.1161/01.STR.0000147724.83468.18


3. Krewer C, Luther M, Müller F, Koenig E. Time course and influence of pusher behavior on outcome in a rehabilitation setting: a prospective cohort study. Top Stroke Rehabil. 2013;20(4):331-339. doi:10.1310/tsr2004-331


4. Pérennou DA, Mazibrada G, Chauvineau V, et al. Lateropulsion, pushing and verticality perception in hemisphere stroke: a causal relationship?. Brain. 2008;131(Pt 9):2401-2413. doi:10.1093/brain/awn170


5. Karnath HO, Ferber S, Dichgans J. The origin of contraversive pushing: evidence for a second graviceptive system in humans. Neurology. 2000;55(9):1298-1304. doi:10.1212/wnl.55.9.1298


6. Karnath HO, Broetz D. Understanding and treating "pusher syndrome". Phys Ther. 2003;83(12):1119-1125.

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