ダイナペニアと加齢 -Dynapenia and Aging-
みなさんこんにちは。
今回は、骨格筋の加齢性変化についてダイナペニアを中心に「Dynapenia and Aging. Manini TM, and Clark CK. 2012」を参考にまとめました。
以前の記事でもサルコペニアとダイナペニアについて書きましたが、改めてダイナペニアについて勉強しました。
過去記事 → サルコペニアとダイナペニア -difference between sarcopenia and dynapenia-
高齢化は日本でも問題になっていますが、アメリカにおいても同様で、2006年時点で65歳以上の高齢者は3730万人以上で、2050年には人口の20.6%の8670万人に上ると予想されています。
どの先進国でも高齢化が問題となっており、加齢による身体機能の低下は医療における大きな問題になっています。
ある報告では、アメリカに住む高齢者の約42%は自立した生活に必要となるADL動作(2~3ブロックの歩行、移乗動作など)にひとつ以上の制限があると報告されています。
高齢者が増加し、身体機能が障害されるリスクをもつヒトが増加したことで、加齢による生物学的な特徴・変化に科学的な関心が集まり始めました。
この数十年の間に、高齢者の骨格筋の機能低下は、身体機能を衰弱させ、生活を脅かす状態に繋がると認識されるようになりました。
加齢性の筋力低下は、死亡率や身体機能障害と強く関連しており、疾患に耐えるためにタンパク質の貯蔵庫として骨格筋量を維持することは重要と言われています。
近年、サルコペニアの診断基準が定められ、様々なチームが身体機能・筋力・筋量の側面からサルコペニア対策を検討しています。
Maniniらは2008年の論文において、加齢性の筋力低下は骨格筋量の減少では一部的にしか説明できず、その他の生理的な要因が関与していることを報告しました。
このことから、Maniniらは「筋力低下」と「骨格筋量の減少」はそれぞれ独立して定義すべきと考えています。
そして、加齢に伴う骨格筋量の低下を「Sarcopenia」と表現し、加齢に伴う筋力低下は「Dynapenia」と定めるように提案しています。
30年前には既に筋力と骨格筋量が単純に相関しないことが報告されていました。
最近の研究では、筋力低下は骨格筋量の低下よりも早期に生じることが報告されました。
Maniniらの研究でも、廃用による筋萎縮は筋力低下の10%未満しか反映することができていませんでした。
また、下のグラフは骨格筋量の維持が加齢に伴う筋力低下を予防できないことを示しています。
体重の増減に関わらず、骨格筋量と筋力の間には年々差が生じていくことが示されました。
すると、骨格筋量と筋力ではどちらの方が身体機能に大きな影響を与えるのかというクリニカル・クエスチョンが生まれるかと思います。
Maniniらは2666の論文からメタ解析を試みましたが、統一した評価が行われていないなどの制限から、上記のクリニカル・クエスチョンの答えを得ることができませんでした。
しかしながら、筋力低下と身体機能障害は90%程度の論文で認められましたが、骨格筋量と身体機能障害は35%程度の論文でしか認められず、筋力低下の方が身体機能障害とより関連していそうなことが示唆されました。
また、別のクリニカル・クエスチョンとして、骨格筋量と筋力のどちらの方が死亡率とより関係しているのかという疑問が生まれるかと思います。
Cesariらの最近の研究によると、腓腹筋の筋横断面積と死亡リスクには関係がないことが示されました。Newmanらの研究でも同様の結果が示されました。
一方で、握力や膝伸展筋力などの筋力は死亡と強く関連していました。
このことから、サルコペニアよりもダイナペニアの方が身体機能や死亡率に対する影響力が大きいことが伺えるかと思います。
Maniniらははじめて、筋サイズではなく筋力低下に注目しました。
いかがでしたか。
サルコペニアに関して注目が集まっていますが、機能面に注目したダイナペニアについてはまだまだ認知度が低いかもしれません。
体重の増減は必ずしも骨格筋量や筋力とは関係しないようです。
見た目に誤魔化されず、しっかりと機能や質を見極めることが重要ですね。
PubMed:Dynapenia and aging: an update